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​RingRing Project

「三味線皮の代替に関する人工合成皮による試作品評価」

はじめに 

 平成27~28年度にわたり公益税団法人JKAの研究補助助成を受けてこの研究を実施しました。

 三味線に用いられているイヌ・ネコ皮の代替皮としてカンガルー皮と合成皮を対象とした代替皮の開発を行いました。開発した代替皮が広く使われるためには音色・音量・弾き心地等がプロ演奏家や愛好家に許容されるレベルに達していないと、受け入れられません。この研究においてはプロ演奏家の評価を得て、その結果を研究に反映し、最終的にプロ演奏家や愛好家に許容されるレベルに達することを目標としました。

カンガルー皮と合成樹脂で作った合成皮を対象とした研究開発を行いましたが、はじめにカンガルー皮についてお話しします。

合成皮の開発 

 次に合成皮についてお話しします。合成樹脂は色々な種類がありますが三味線の代替皮として開発する際に次のような点を考慮しました。

(1)天然皮とほぼ同様な厚さ

(2)十分な音色と音量を出すため必要な張力に耐える強度

(3)作製や入手の難易度と価格

また、胴との接着方法も解決すべき問題です。

 樹脂として「ナイロン」「ポリカーボネイト」「アラミド」の3種類について検討しました。合成樹脂を原料として皮のような膜状に形成する方法として樹脂を薄く成型して「フィルム」とする方法、または樹脂を細く引き伸ばした繊維を織って「布」とする方法があります。「ナイロン」と「ポリカーボネイト」はフィルムに成型した膜、「アラミド」は繊維を織った布を試してみました。3種類の合成皮を三味線に張って試奏を行った結果、「ナイロン」と「ポリカーボネイト」については音色・音量ともに代替皮とはなりえないと判断し、開発対象をアラミド繊維に限定して開発を行いました。

​この研究はJKAの研究補助事業の助成を受けて実施されました

試奏用三味線にカンガルー皮を張った三味線です

カンガルー皮の開発

 カンガルー皮は皮の厚さや質がイヌ・ネコに近いとことと比較的安定した供給を見込むことができるため代替皮として選びました。

これまで、長年にわたって培われてきた三味線の皮張り工程は次の3工程に分けられます。

(1)なめし

(2)裁断

(3)張り

「なめし」は原皮の表側にある毛と裏側の脂肪や繊維等の不要物の除去を行い三味線用の皮に仕上げる工程、

「裁断」は「なめし」が終了した1頭分の皮から三味線の胴に張るための大きさに切り取る工程、

「張り」は胴に皮を接着剤で貼付する工程です。これらの工程は在来の皮張りで長年にわたって培われてきたノウハウはいわゆる「職人技」として確立蓄積されています。

 カンガルー原皮は豪州から輸入業者を経由して入手し、「なめし」は国内の三味線皮のなめしを専門とする業者に依頼しました。

 「裁断」工程では原皮の大きさが動物によって異なるため裁断方も異なりますが、カンガルーは皮が大きいので6枚以上を切り取ることが可能です。ただ、カンガルー皮の厚さは切り取る部位によって異なるうえに個体によって厚さの変化がまちまちで、表裏1対の皮の組み合わせは部位によって決まらないことが分かりました。

「張り」は皮を胴にのりで貼り付ける工程ですが、張る際に皮に張力を与えて胴に固着します。胴の上端部に上新粉で作ったのりの塗り、皮の周囲端部を「木栓(きせん)」で挟み、胴の下側に置いた治具との間にひもをかけて張力を与えます。皮の張力は音色・音量に大きく影響するためひもの絞め具合は高度な技術:「職人技」に支えられています。

 試作したカンガルー皮は試奏用三味線に張って評価を行い、その結果に基づいて作製段階に改良を施すサイクルを繰り返しました。このような経過のなかで製作過程での技術改良と蓄積が進み、商業ベースでの供給が可能となる見通しがつきました。

試奏用三味線にアラミド繊維布を張った三味線です

評価について 

 カンガルー皮の試作品はプロ演奏家による評価を行いました。分野と三味線の種類は下のとおりです。

長唄(細棹) 

民謡(中棹)

地唄(中棹)

清元(中棹)

義太夫(太棹)

津軽三味線(太棹)

長唄・地唄・清元・津軽などの人間国宝の方々や家元宗家、長唄名跡の方々などに試し弾きと評価をお願いしました。全体として好評で、今後の改良によって猫皮・犬皮の代替皮となりうることを期待するという評価を得ました。特に長唄と民謡の分野では高評価でした。また、「邦楽器音響研究会」メンバーによる評価で雨天等の高湿度の環境において音色に影響を受けにくく、高い耐環境性を有するとの指摘もありました。

 合成皮の試作品については主として「邦楽器音響研究会」のメンバーによる評価を行いました。

 試作したカンガルー皮と合成皮は演奏会で試奏し、聴衆からの評価を行いました。これまで7回の演奏会・試奏会を行いアンケート調査も実施しました。

津軽(太棹)の試奏

義太夫(太棹)の試奏

清元(中棹)の試奏

地唄(中棹)の試奏

長唄(細棹)の試奏

合成皮(細棹)の試奏

おわりに

 本研究ではカンガルー皮および合成皮による代替皮の試作と評価を行いました。カンガルー皮については原皮の選定、加工、張りについて従来の技術を基に修正を加えイヌ・ネコの代替皮となり得るレベルに達したという評価を得ました。さらに音色としてイヌ・ネコと同等の「カンガルー皮」が一つのジャンルとなり得る可能性があることが分りました。合成皮については原料の選定、織布方法、張りに関して一連の技術を確立することができました。音色に関しては“三味線の音”に至ってはいるがイヌ・ネコ皮と同列の評価を受けるには至りませんでした。ただし改良の方向性は見出すことができたので今後の開発によって評価を高めていくことは十分に可能であると考えています。

 本研究を実施するにあたって、皮の試作や貼付等に三味線職人の方々の多大なるご協力を頂きました。また、評価に関してプロ演奏家の方々と試奏会の聴衆の方々にも多大なるご協力を頂きました。本研究は公益財団法人JKAの「自転車等機械工業振興事業に関する補助金」の助成を受けて実施されました。これらのご支援のおかげでこのような成果を挙げることができました。関係者の方々、皆さまに篤く篤く感謝申し上げます。

 

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